TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月〜金曜6:59〜)。「激論サミット」のコーナーでは、元関取で歌手の大至さんを交えて、岐路に立たされた“相撲界の未来”について議論しました。

◆深刻な力士不足、その要因は?

日本の国技と言われ、伝統文化のひとつである相撲が今、窮地に立たされています。その理由は、“力士不足”。2024年の初場所の番付では、力士数が600人以下となり、500人台になったのは45年ぶり。その要因は、少子化による新弟子不足、時代を牽引するスター不在などが考えられます。

力士数の推移を見ると、若乃花・貴乃花が活躍した“若貴フィーバー”に沸いた1994年をピークに徐々に減少。2023年は599人とピーク時に比べ36%減。また、同年の新弟子数は53人と過去最少で、ピーク時のおよそ4分の1となっています。

元関取で最高位前頭三枚目として活躍、現在は歌手として活動する大至さんは、新弟子が減った背景について「一言で言えば、(相撲の)魅力が少し欠けている」と指摘。「親御さん側が納得して、どうしても入れたいという状況ではないと思う」と自身の見解を示します。

力士減少の一端には角界の不祥事もあると言われています。例えば、2007年には時津風部屋で傷害致死事件が発生。2010年には野球賭博問題が発覚し、テレビやラジオの中継が中止に。また、同年は朝青龍が暴行事件で引退しています。そして、2011年には八百長が発覚し、2017年には日馬富士も暴行事件で引退。さらに、2021年には十両力士の大麻使用。昨年は伊勢ケ浜部屋・陸奥部屋で暴力事件、巡業中に未成年力士が飲酒していたことが発覚しています。

元裁判官で国際弁護士の八代英輝さんは、一連の不祥事を鑑み、「安心して子どもを(相撲)部屋に預けられないようなパワハラ体質が蔓延している印象が非常にネガティブ」と率直な印象を語ります。

大至さんは、こうした事件が明るみに出るたびに胸を痛めていたそうで「一部の力士の行為によって相撲界全体がそう見られてしまうことは悲しい。全員の力士がそういうわけではない」と悲嘆します。

そして、今の相撲界については、「(相撲)協会としても暗中模索、試行錯誤していることは事実。過去は過去として、過ちから学ぶことはたくさんあると思うので、これを糧に相撲協会、力士、全体が良いほうに向かってほしい」と期待を寄せます。

◆かつては厳しい相撲界、しかし今は…

力士不足の原因は不祥事だけではありません。一般的に角界には厳しい規律があるイメージが根強く、例えば、風呂やちゃんこは“順番制”、修行時代には“付き人制度”があり、それらについてはさまざまな憶測を呼んでいます。

大至さんは、「相撲部屋、人それぞれによって違うと思いますが、私が相撲部屋にいた頃は“順番制”は番付順のような感じがあり、稽古は下の人から。一方でお風呂や食事はお客さん、親方、先輩関取・兄弟子からで、新弟子たちは最後になっていた」と自身の経験を語ります。

しかし、そうした経験からハングリー精神を養うことができたとし、「そのときは、それはそれで大事なときだったと思う。今を育ててくれたのは、修業時代があったから」と大至さん。

“付き人制度”にしてもさまざまなルールがあったそうで、八代さんからは「『そうした時代があったから今がある』という大至さんを立派だと思う反面、それは洗脳だとも思うし、そんなパワハラ社会は今の社会では通用しない」との厳しい言葉が。

小学生時代、相撲で全国ベスト16の経験を持つmicroverse株式会社 CEOの渋谷啓太さんは当時、相撲部屋の見学に行ってみたものの、その独特な雰囲気やしきたりに馴染めず、相撲界を志すことはなかったと回顧。

そうした声に、大至さんは「今の時代にはそぐわないかもしれないが、自分たちは愛の鞭だと思っていた」と返答。しかし、現在はそうした風潮は是正。「昔は竹刀を持った親方がいたが、今は力士を指導する上では口頭でと決まっている。一生懸命、改革の方向に向かっている」と現状について言及します。

◆十両以上になれば、給与は1,000万円以上

続いては、力士の給与面に焦点を当てます。角界の給与体系はシンプルで、番付通りのピラミッド制になっています。横綱の年額3,600万円を筆頭に、大関、関脇・小結、前頭、十両までは1,000万円以上。しかし、それ以下の幕下、三段目、序二段、序ノ口の給与は年額100万円以下。ただ、幕下以下の力士に関しては部屋が面倒を見ることが前提となっているそうです。

大至さん曰く、角界には“番付が一枚違えば虫けら同然”なる言葉があり、これは幕下の筆頭と十両の最下位では大きな差があるという意味で、給与を見ても明らか。そのため、自身が十両に上がった際には「無茶苦茶幸せでした」と当時の心境を振り返ります。

また、力士の大きな課題に“ケガ”があり、ケガで休場すると番付が変わってしまいます。以前は土俵上でケガをしても次の場所は番付が変わらない“公傷制度”がありましたが、それは現在廃止。これについて大至さんは、「“甘えるな”というような愛の鞭だと思うが、やはりケガをしない力士を育てるのも親方の大事な役目」とその意図を推察。

とはいえ、相撲は屈強な力士が全力でぶつかり合うとあって、八代さんは、その身体的な危険を案じ、「(試合の)回数がそもそも多すぎる。(ひと場所)15日間、それが6場所。さらには巡業もあり、ケガをしないわけがない」と危惧すると、大至さんも「だからこそケアをお願いしたい」と適切なフォローを望みます。

◆相撲界に根付いた伝統…残していくべきか?

関西大学特任教授の深澤真紀さんは、相撲人気にかげりが出た理由として、2018年に起きた一件を挙げます。それは大相撲舞鶴場所に土俵上で舞鶴市長が倒れ、女性看護師が土俵に上がった際、「女性は土俵から降りてください」と声がかかったこと。相撲界は古くから“土俵は女人禁制”とされ、その伝統と人命を天秤にかけたことが問題視されましたが、当時、深澤さんもあまりに排他的な姿勢に「驚いた」と本音が。

さらに深澤さんは、「そもそも相撲は日本公認の国技ではない。日本に公認の国技はない」と指摘し、「昔はオリンピックの正式競技にしたいと思っている人たちがたくさんいたので、女性も入れようと(いう声もあった)。柔道やテコンドーなどのように世界に出せるコンテンツなのに、相撲協会はそういう道をわざわざ閉ざそうとしている。だからこそ若い人に夢がない気がする」と伝統や慣習に縛られた相撲界に苦言を呈します。

この意見に大至さんは、「(相撲界は)変わってきているようで、まだ変わってはいない。(指摘されたことも)伝統と言ってしまえばそれまでだと思うが、自分は昔からの伝統を今後も引き継ぎ、守っていくべきだと思うし、それが相撲でいいと思う」と個人的見解を述べます。

◆引退後は…!? 力士のセカンドキャリア

現役を引退後、力士のセカンドキャリアはどうなっているのか。番組では「甲旺(かぶとおう)」の四股名で15歳から9年間、力士として活躍した赤堀隆一さんを取材。彼は現在、川崎市で不動産業を営んでいますが、引退直後はアルバイトで日々凌いでいたとか。というのも、在籍していた相撲部屋は小さく、引退時にも就職のサポートなどは特になかったから。

赤堀さんは「大きい部屋であれば、応援してくれる人が(就職を)支援してくれることがあるが、やはり力士になる人は中卒、高卒が多く、学歴社会では厳しい。引退後に仕事があるというのは(相撲界への)入りやすさにはつながると思う」と言います。

大至さんもかねてから力士のセカンドキャリアに気をとめていたそうで、「親御さんを安心させるという意味では、ある程度の番付までいった力士には(就職の)斡旋があってもいいと思う」と切望。現在、セカンドキャリアをサポートする組織などはないものの、例えば、飲食店を経営している親方は自身の店舗で雇ったりすることがあるそうです。

◆相撲界を守っていくためには?

最後に、今回の議論を踏まえて、コメンテーター&ゲストが相撲界の未来のための提言を発表。

渋谷さんの意見は、“透明性のあるエンタメコンテンツ”。「世界を見てもなかなかないコンテンツだと思うし、例えばITなどを活用し、ちゃんとしたエンタメにすれば見る人が増え、収益も上がり、やる人も増える」と展望を語りつつ、「それをやるためには透明性が大事で、土俵に上がるまでの過程でパワハラなどがあるとそこを目指す人が減るので、過程も透明化してエンタメコンテンツにしていくべき」と主張します。

深澤さんは、相撲の難しさとして“日本文化であること”を挙げ、「日本文化、神事、興行、スポーツ、全部違う要素で、それらが悪いほうに合体している気がする」と述べます。そして、角界では多くの外国人力士が活躍しており、いまや相撲は日本人だけの文化ではなく「女性も排除されるべきではない」と強調。

また、相撲部屋や力士をサポートしてくれるスポンサー的な存在である“タニマチ”の存在にも言及。深澤さんは「タニマチに支えられないと食べられないというような文化がある」と懸念する一方で「(相撲は)スポーツとしての魅力は大きく、女子相撲やワールドゲームズ相撲などは明らかに可能性がある。そこを重視すべき」と新たな方向性を示唆します。

八代さんは「伝統文化というところで小さな枠組みに入りすぎているのではないか。公益財団法人という枠組みからスタートしていることが失敗で、各部屋の親方が権限を持ちすぎ。メジャーでもなんでもやはりプレーヤーがもっと力を持つべきで、そのためには団体交渉権が必要」と熱弁し、“力士組合”の創設を提案します。

最後に、大至さんは「僕は逆に基本に戻る時期なんじゃないかと思う。相撲は神事ということをしっかり踏まえるべき」とし、その上で“それぞれの立場をしっかりつとめること”を提案。「力士は稽古をして、充実した土俵をとる。それから礼儀、思いやり、品格といったものを兼ね備える。親方は強い力士を作るのはもちろん、立派な人間を作る。そして、相撲協会はそれらのブランディングをしっかりやることが大事」と主張しました。

これまでの議論をまとめて、キャスターの堀潤は「力士を守ってほしい、宝だから」と訴えていました。

※この番組の記事一覧を見る <番組概要>番組名:堀潤モーニングFLAG放送日時:毎週月〜金曜 6:59〜8:30 「エムキャス」でも同時配信キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/番組X(旧Twitter):@morning_flag番組Instagram:@morning_flag